はるヲうるひと

f:id:inu_suke:20220103025230j:plain

2021年 日本

原作・脚本・監督:佐藤二朗

出演:山田孝之 / 仲里依紗 / 佐藤二朗 / 坂井真紀 / 今藤洋子 / 笹野鈴々音 / 駒林怜 / 太田善也 / 向井理

 

すげえ胸糞悪かった。

冒頭から終わりまで息つく間もなく胸糞悪かった。1秒も隙がなく胸糞悪い。

不快感でいっぱい。ずっとフルスイングでぶん殴られてる気分。とにかく疲れた。

 

「不幸」をかき集めてトラウマにしてやるぞという意気込みを感じた映画だったんですけど、話と設定がちょっと無理があった。登場人物に誰も感情移入できなかった。出てくる人が全員狂っていてしんどい。登場人物がそこの世界で生活をしているように感じられなかったから、リアリティがあまり感じられなかったのかもしれない。

地方の田舎の島にある売春宿が舞台で、主人公とその妹はそこから抜け出せなくて苦悩するという話。佐藤二郎演じる腹違いの兄の哲雄に奴隷のような扱いをされていて地獄のような毎日なんだけど、なんで彼らがそこから逃げられないのか、そして兄の哲雄になぜそこまで頭が上がらないのかが理解できない。そこの苦悩が共感できなくて話が入ってこなかった。

いや、主人公の得太(山田孝之には壮絶な過去があるんですよ。両親が目の前で心中をして死んでしまったという壮絶なトラウマな過去があるんですよ。その過去があってから兄は人が変わったように弟と妹に辛く当たるようになったんですって。

いや、だとしても、だからといって、そこから逃げられないという理由にはなってない気がする。逆にその壮絶な過去があまりにも猟奇的すぎて、物語のリアリティを損なっている原因になってしまっているんじゃないかと。

僕はなぜこの作品を見て、いまいち乗れなかったのか、悶々としてしまった。

山田孝之仲里依紗も佐藤二郎も出演者全員素晴らしい演技をしていました。鬼気迫る迫真の演技に息を飲む凄いシーンがいくつもあった。だけど乗れなかった。たぶん「不幸」という記号をずらっーと並べられて、ずーっとその「不幸」という記号を見せられてしんどかった。この登場人物がどういう人達なのか結局よくわからないまま終わった。結局彼らはどんな人だったんだろう。こんなに迫真の演技だったのにだ。なぜなんだろう。その原因すらもわからない。わからなくて悶々としてしまった。

で、そうなってしまうと、余計なことが頭によぎるんです。「山田孝之だから凄い演技をしてくれるんだろう」という見方をしてしまう。もうその時点でその世界に没頭できてないんです。僕が山田孝之と佐藤二郎が好きすぎて勝手に変な期待をしすぎたんだと思う。とにかく山田孝之と佐藤二郎の演技力の力技にねじ伏せられたけど、話は全く入ってこないという状況だった。

そして「不幸」という記号が、シュールなのかリアルなのかどっちなのか分からなくなってしまったんだと思います。この物語にも多少のギャグ要素も入っていたと思うんだけど、これがギャグなのか、笑っていいのか分からない場面がいくつかあったのが気になってしまった。例えば「日焼けしようと裸で道端に寝そべっているおっさん」あれなんですか? このオッサンの存在はシュールな笑いなのか、狂気なのかどっちなのかが分からなかった。笑いとは緊張と緩和によって生まれると言われているけど、今回はシリアスなお話だと思って見てるし、シリアスに振り切って欲しいなかでギャグなのかシュールなのかよく分からない描写がすごくノイズだった気がした。一番腑に落ちなかったのが、最後山田孝之が過去のトラウマを告白した最も緊張感のある迫真の演技のあと、「愛ってなんなんだよ!」って言うのに対して、「そんなことを人に聞かないと分からないなんて鼻くそ以下だな」ってなぜか薬屋のオッサンに言われたのが一番納得がいかなかった。あのシリアスな場面で薬屋のオッサンの登場の仕方がギャグっぽく現れて、最後のオチのような存在だったのが腑に落ちなくて、これがギャグなのかなんなのか気持ちが追いつかなかったのが一番の敗因でした。殺したいくらい憎い哲雄に対してみんなの怒りが爆発しているあんな場面で、あのオチで良かったんだろうかと。

そのあと、結婚式の宴会の場面に切り替わって爽やかにエンディングを迎えようとしていたけど、気持ちの整理が追いつかなくて、いやいや丸く収まらないから!坂井真紀と今藤洋子が、海をバックに「私たちこれからどうなるんだろうね」と言いながら日本酒を乾杯して遠い目で黄昏ていたけど、いやいやいや、もう無理でしょ、あんなことあって、もう誰か死なないと収集つかないから!

もう僕はこの世界が居心地が悪すぎてとにかく辛かった。