アングスト/不安

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1983年 オーストリア

監督:ジェラルド・カーグル / 撮影・編集:ズビグニュー・リプチンスキー / 音楽:クラウス・シュルツ

出演: アーウィンレダ

 

1983年にオーストリアで制作された映画なんだけど、当時本国オーストリアでは1週間で上映打ち切り、他ヨーロッパでも上映禁止、イギリスとドイツではビデオの発売も禁止。アメリカではXXX指定を受けて配給会社が逃げたという。 そんないわくつきの映画が、37年の時を経て、日本で今年の2020年に劇場公開になったという。

配給会社が逃げたってなんだよ。

1980年に実際に起こった一家惨殺事件を、実話に基づいて殺人犯の目線で犯行の一部始終を描いた映画らしい。

 

とても気になる。

が、観るのが怖い。とんでもないトラウマが待っていそう。確実に胸クソが保証された案件だ。大丈夫だろうか。不安だ。

 

なんだけど、

内容は意外とたいしたことなかった。あっさりと淡々としていた。拍子抜け。あれ?こんなもん?って思ったんすけど。

見終わった瞬間はあれ?って思ったんだけど、いや、そうじゃない。

逆にリアルなんだ。

犯人の犯行の一部始終の描き方がめっちゃリアル。これはあれだ、あとからジワジワくる映画だ。いまこのブログを書きながら、ジワジワとあの映画のヤバさを実感している最中で、「あれ?意外とたいしたことない?」って感じたことのほうがヤバいというか。麻痺してんすよ。現代の映画があまりにも過激な表現を試行錯誤しすぎなんだと思う。僕らは知らず知らずに「人が人を殺す」という表現を娯楽として慣れてしまっているのかもしれない。この映画が37年前のものと考えると当時衝撃がデカかったことを理解した。

 

この映画がリアルすぎるから、改めてそう感じてしまった。

殺人という非日常は、ファンタジーにしないと消化できない。

 

普通、映画ならもうちょっと脚色したり、演出すると思う。見せ場を作ったり。クライマックスをどこかに用意すると思うんです。娯楽ファンタジーなら。この映画は、主人公の行動がとにかくグダグダなんです。段取り悪すぎだし手際が悪すぎる。殺すときも訳わかんないタイミング。「わたしには完璧な計画がある」ってずっと言っているけど、無計画すぎる。主人公がとにかく鈍臭く情けない。本当に衝動的なんだなって。もう彼の行動なんて誰にも理解できない。こんな不可解な犯罪の行動に、都合よくドラマなんか起こる訳がない。だって彼にとって人を殺すことに理由や意味なんてないんですもん。

犯人の殺人の犯行を、犯人の主観の視点で、犯人のナレーションつきで、ひたすら擬似体験させられるドキュメンタリー映画だった。なにかよくないものを頭の片隅に植え付けられた気分だ。モヤモヤする。無意識に潜在的サイコパスの心理を植え付けられた可能性がある。これは危険な映画だ。

 

そしてこの映画、1983年とは思えない最近の映画の映像みたいなんすよ。色のトーンとか、撮影のカメラアングルとか。すごくスタイリッシュな映像だった。

予告のトレーラーが「世界各国上映禁止」という煽り文句なのが斬新。普通なら「全米No.1 大ヒット!!」とか言うじゃないすか。

 

とにかく主演のアーウィンレダーの怪演が素晴らしい。そして犬が可愛かった。

やっと時代が追いついた早すぎた映画。