スリー・ビルボード
2018年 アメリカ
監督:マーティン・マクドナー
出演:フランシス・マクドーマンド / ウディ・ハレルソン / サム・ロックウェル
娘がレイプされて焼き殺された被害者の母親が、犯人がいつまでたっても捕まらないことに対し、怒りのメッセージを広告板に張り、町中の人に非難されるという話。
「娘はレイプされて焼き殺された」
「未だに犯人が捕まらない」
「どうして、ウィロビー署長?」
という3枚のメッセージ。
この映画を見て、僕はなんとも言えないモヤモヤとした居た堪れない気持ちになり、主人公の母親としての気持ちを察するととても辛く、絶望した。
なんだけど、この母親は完全な電波で、サイコパスだった。怒りはどんどんエスカレートしていく。同情はするけど共感はできない。いや、自分にもし娘がいたとして、そんな酷い目にあわされたらと思うと、自分もこうなってしまうかもしれない。しかし…。
そんな気持ちの所在を探しているうちに、「もうだめだ、しんどすぎる」と、思考が停止した。
しかも登場人物が全員クズしかいない。警察はクズだし、マスコミもムカつく、広告屋の薄ら笑いもムカつく。別れた旦那は若い女と付き合ってなぜか呑気だし。その旦那と付き合ってる19歳の女も天然で頭悪そう。なんか街中の人から見下されてるような気分だ。もう全員ムカつく。なにもかもどうでもいい。
そんな自暴自棄になった母親の復讐劇を描いた映画。この母親は新しいタイプのダークヒーローに見えた。テーマは重いんだけど、やたら台詞にシニカルで小粋なジョークが多かった。その軽い感じが余計に皮肉に感じた。世間なんてこんなもんだ。どうせお前らみんな他人を見下してるんだろ?人種差別への皮肉にも感じた。
そして、ウィロビー署長、彼が一番かわいそう。署長が泣ける。
それと、ダメでクズな警官のディクソン、あいつが一番エモい。僕は後半いつの間にか彼を応援していた。
結果的にみんな不幸になっていくんだけど、後半になるにつれてその人間模様が泣ける。人は追い詰められると本性が出てくる。嫌な奴だと思っていたけど本当はみんなそんな悪い奴なんかじゃなかった。
オレンジジュースのストローのくだりで泣きそうになった。人の優しさが傷口にしみる。
アカデミー賞、主要6部門 7ノミネート しているらしい。
主演のフランシス・マクドーマンドはコーエン兄弟の「ファーゴ」の主演の人だった。ファーゴのときの怪演を思い出し、無性にファーゴが見たくなった。この映画は「ファーゴ」や「ノーカントリー」に並ぶ名作かもしれない。監督は違うけど。